2012年11月22日

最後のフロンティア 4 (ジャンピングトレイン) ミャンマー編

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● ジャンピングトレイン

図Yangon-Nayoyitaw-Mandalay線 .jpg
(ヤンゴン〜マンダレー)

 食堂車までの距離は2,3輌分である。だが、足元はコップを逆さまにしたような縦揺れと、揺りかごのような横揺れに阻まれてふらつき、よろけながら何とか香漂うレストランカーにたどり着く。しかしそこでは、趣味の悪い音量で現地のポップミュージックでふんだんに染められ、どんよりとやる気が感じられない従業員と客との馴れ合いが辺りを支配している。その中で独り、外国人がチョコンと座るので、なかなか注目の的になりやすい。

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(倦怠感漂う大揺れ食堂車)

 とにかくメニュー表を観なければ話にならない。ボーイだ、ボーイはどこにいる?あぁ、あいつがそうだ。読めるアルファベット標記のメニューを持ってきてくれ!。

 壊れたバネのトランポリンが勢いずく縦揺れが巻き起こる中、私は何とかメニュー表に期待をつなぎボーイが近づいてくるのを喜びのまなざしを向ける。しかし、それをもらっても何が何だかよく分からない。とりあえず、『ナントカNoddle』『ナントカRice』は解るので、麺類と炒飯らしきものを適当にオーダー。すると、汁無しジャージャー麺のような料理がプラスティックの皿に載って現れるではないか。ところがどっこい、見た目よりなかなかいける味で、その他にミャンマービールを片手にすれば、これは立派なご馳走である。

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(キモチがリッチに、食堂車の食事)

 しかしこれだけでは腹がふくれない。かといってメニューの大冒険はしたくないのだが、すると、従業員が食べているスープが妙に食べたくなり、指を差す。やはり、何を食べていいか解らない場合は、現地の人が食べているものを指差すのが一番かもしれない。

 コックはどうやら私の希望を理解したようで、厨房の火を強め始める。やがてそのスープはお椀ナミナミなってテーブルの上に運ばれてくるが、ジャンピングトレインの恐ろしさはここで本領発揮!スープが大波を打って激しく軌道の刻みにあわせて盛り上がっては沈むので、なかなか口に到達できない有様である。
 
 まるで闇の大地が激しく怒っているようだ。雨季の空は稲妻が東西南北、豪華絢爛に激しく乱舞し、その模様は下手な芝居を眺めているよりかはるかに芸術的で面白い。そんなものに惚れていると、車内はすっかり虫の息のように寝静まった様子となってしまっている。ミャンマーの夜は意外と早いようだ。

 食堂車で優雅に腹いっぱいスープを口に運んでいる、その隣の車輌である一般座席車からは時々叫び声が聴こえてくる。そう、一般座席車は恐ろしいほど窮屈なのだ。くたびれた木造の椅子にすっかり二人分占有してスヤスヤ眠りに落ちている要領の良い子どももいれば、4人座席に6人くらい詰め込んでは嫌〜な顔しながらあちらを向いて眼を閉じている者もいる。そんなごちゃ混ぜの空間だが、治安はなかなか良い。一般のミャンマー人はたいていは礼儀正しく、そして寛容であり、僧侶も民衆も一緒になってみな安心して一夜を共にする。

 長い長い夜路をゆく第5列車は、夜9時半を過ぎた頃、ようやくタングー(Taungoo)に到着する。ミャンマーの鉄道がヤンゴンから始めて開業した一番北側の駅である。

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(タングー(Taungoo)駅到着)

 さらに3時間北へ走れば道中の中間点、ピンマナー(Pyinmana)に到達する。バガン方面線の分岐点であるが、同時にここは新しい首都、ネピドー(Naypyidaw)の近郊だ。ピンマナーから20分ほど北に走ると、0:20、突然不気味に不自然な目新しい駅、ネピドー駅に到する。2009年に開業した低いコンクリートホーム3面ほどの地平の駅で、跨線橋で繋がっている。

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(首都・ネピドー(Naypyidaw)駅)

 2003年から2006年にかけていきなりここに首都を建設し、遷都を実行させたのだから、その大胆さと軍事政権のやりたい放題さに当時は笑いが出てしまったのを思い出すが、しかし、南に偏り、そして、イギリスによる侵略の拠点であるヤンゴンをわざわざ首都にしておく必要もないわけだから、これはこれでいいのかもしれない。

 首都・ネピドーは進行方向左側にある。もちろんこんな時間だから仕方がないのだが、煌々と輝く街路の灯りの下には車一台も走っていないが、だだっ広い道路といい、無駄に明るい街路の灯といい、ほんの少し新首都を見たような気がする。

 ここを過ぎれば後はマンダレーまでそんなに特別なイベントはない。解放の窓からは月の光が追いかけるように差し込み、どこまで走ってもその月は私を見放さなさず、頭上にぶら下げているミコディーが月光のシルエットとなって顔を照らす。時折、車輌が断続的にジャンプして下から突き上げられては空中に舞うような錯覚と相まって、異次元の世界の旅にしばし酔っていた。

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 朝

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(夜明けの窓辺)

 いつの間にか眼はうつろい、眠っていたことすら記憶と感覚が薄い夜汽車の旅だったが、改めて眼を開けると、見事に東の空が明るい。そう、一晩をついにここで明かしたのである。何であろうかこの達成感は。列車は右手に左手に湖らしき水溜まりに車体を映しながら最後の力走をしていて、その水溜りの群れが東から差し込む陽の光に漫然と輝き始める。

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(水溜りが映える)



 朝もやの村々の小さな駅を通過する際、おそらく僧学校に登校する途中であろうか、赤いマントのような僧服をまとった子どもたちがせっせと線路の上を並んで歩いている。これこそミャンマーらしい風景だ。



 そしてここら辺はすでにマンダレー近郊の村であることは何となく感じ始め、次第に車内はソワソワと忙しくなってくる。

 やがてマンダレーの住宅群がいきなり現れ始め、右より左より線路が合流してくるとマンダレー駅は近い。堂々と町の真ん中を貫く列車は、踏み切りを使って大通りを思いっきり封鎖しては、ノッシノッシと歩んで群集の視線を一挙に集めて最後の歩みを続ける。

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(終点マンダレーは近い)

 6:15、定刻より何と15分よりも早く、第5列車はマンダレー駅に到達する。やはりHoot(汽笛)が最後を締めくくり、‘ガツン’と客車が停止すると、一斉に人々が低いホームに流れては、四方八方に散らばってゆく。無駄に豪華なマンダレー駅は、上階の切符売り場からホームまで今日一日が始まったばかり。15時間を駆けた古傷だらけの老列車は、夜明けのミャンマーで最後の息をついていた。

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(約16時間の旅路を終えた第5列車の兵《ツワモノ》)

※寝台車の‘たび'
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 寝台券は3日先から駅の窓口で買える。とても不便なシステムのため、手数料はかかるが、旅行会社に頼むのもありだ。寝台車は1列車に1輌しか連結されておらず、7つのコンパートメント部屋に、1部屋に2段ベッドが二つ並んでいる。部屋まで食堂車で雇われている少年たちが食べ物を持ってきてもらう事ができる。また部屋の鍵も車掌から渡されるので、セキュリティーは大丈夫だ。月の光を眺めながらレールのジョイント音を感じ、ベッドで横になる心地は、自分が今この時だけ、あらゆる世界から切り離された究極の自由の中を泳いでいる錯覚を感じるであろう。眼が覚めるとそこは太陽の下。シーツは朝方回収される。掛け布団はない。

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参考文献:
※1) CITY POPULATION :『 『by : E conomic & World Urbanization Prospects The 2007 Revision』
※2) http://www.minamitours.com/yangon_circular.htm
※3)『CHINADAILY.com.cn』 http://www.chinadaily.com.cn/business/2012-02/16/content_14622694.htm

その他
『Ministry of Rail Transportation (Burmese)』 http://www.ministryofrailtransportation.com
『Heritage structure still serves railway system』
http://www.myanmar.com/myanmartimes/MyanmarTimes18-343/n010.htm

『Train travel in Myanmar (Burma)』 (http://www.seat61.com/Burma.htm
『世界の鉄道』 社団法人 海外鉄道技術協力協会(2005年6月発行)
『地球の歩き方 ミャンマー(ビルマ)』 '11〜'12 ダイヤモンド社 / ダイヤモンド・ビック社

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posted by kazunn2005 at 21:08| Comment(0) | TrackBack(0) | 旅行
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