2012年11月20日

最後のフロンティア 3 (動脈幹線 ) ミャンマー編

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http://jp.wsj.com/World/Europe/node_551046
(米国のオバマ大統領は、2012年11月19日、米大統領として初めてミャンマーを訪問した。選挙で再選されて初めての新規外遊先にミャンマーを選んだのはかなり意味が深い。そんなミャンマーに9月に行っていた。これはミャンマーの鉄道乗車記である。)
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 ● 動脈幹線 

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 ヤンゴン(Yangon) 〜マンダレー(Mandalay)

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(ヤンゴン→マンダレー線 経路)

 15:00発、マンダレー行き5列車は、すでに1番線ホームに‘ズン’と構えている。総編成は客車14輌+機関車、堂々とした国の代表列車があくびを唱えながら発車を待っている。
 
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 (発車前の第5列車)

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 私は寝台券の切符が取れなかったので、仕方なく1等車(Upper Class)に流れるしかないが、1等車といっても寝台に比べれば雲泥の差の‘泥’の地位であり、くたびれた旅だけは保障される。一応、斜め70度くらいリクライニングできるが。
 
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(1等車(Upper Class)の内観)

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(1等車(Upper Class)の座席)

 時計の針が15時を指すころ、定刻ぴったりに笛が鳴り響き、はるか前方の機関車の汽笛が鼓長くこだまする。意外と時間には正確なようだ。列車はヤンゴン中央駅の広い構内の線路を跨ぎながら次第に軌道は2つに収斂し、ゆっくりとヤンゴン市内を刻む。
  
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(ヤンゴンの駅を発車する)

 しかし、少し走っただけでは街は終わらない。人々や車の喧騒が漂う中、20km/hくらいの速度でトロトロ走っていると、列車を待っている売り子たちが呆然とこちらを見送る。あまりにもゆっくりだからか、列車は線路際の子どもたちの格好の遊び相手にもなり、全速力で追いかけては、デッキの手すりを捕まえて‘チョコン’と飛び乗るのだ。これはなかなか楽しい遊びだ。

 子ども達の遊び場である近郊の駅をいくつか通過し、すれ違う列車の姿がまだ頻繁に顔を見かける頃、出会う彼ら客車たちはどれも年季を経て相当使い込んでいると解る車輌ばかり。長い独裁政権の間、鉄道会社は車輌を新しく製造したり、輸入する余裕はなかったため、周辺の東南アジア諸国と比べて経済が相当遅れていることが鉄道をみてもわかる。
 
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 (年季が入っている車輌たち)

 ミャンマーの客車の状態はかなり悪く、事実、古いものを今でも使ってる。1,252輌ある客車のうちの約32%。386輌ある機関車においては47%。3,311輌ある貨物車輌にいたっては56%程が40年以上も前の超お古だというのだから、これから経済発展が見込まれるこの国の政府としては、急いでリニューアルしなければならない。だから、融資してくれる国であればどこでもウェルカムであろう。因みに、ドイツやフランス、そして日本からも中古の車輌を無償で受けている。※3)

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 さて、列車はやがて都会の片隅からようやく解放され、それまでの手押し車のような速度の列車はようやく本気を出し始めた。気がつけば沿線の建物は少なくなり、変わって田んぼや畑、時々水に沈んだ浮き畑が窓の向こうに流れる。トラクターの代わりに牛がのんびりと畑の上で休みながらこちらを見、機械化されていない農村の風景にしばし心を落ち着かせる。広大な大地とグレー色の雲の境目あたりに、七色の虹橋がダブルに連なる気まぐれな雨季の空が、あちらこちらで大いに湿らせていて、やがて列車がその雫の下へ突入してゆくのだ。

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 (原野をゆく)

 列車はそれでもひたすら走る、走る、走る。雨が途切れ、一斉に日差しが差し込む頃、かすかに先頭の機関車から汽笛が聞こえ、光り輝く黄金の寺院が静かに彩を放ち始める。

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それは小さな駅を思いっきり通過する合図であり、ほんの少しだけ人の息吹を感じる瞬間を窓辺の私に与えてくれる。線路際の駅の周りの集落には、竹の材質の土台の上にヤシの木で造られた家々が並び、大人も子ども総出でこちらに関心を寄せる。中には満面の笑みと最大限の意思を表現するために両手を左右に振ってこちらにシグナルを送っている子どももいる。
 
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 (小さな駅を通過)

 そして列車はまた孤独な大地に舞い戻る。

 ヤンゴンから約2時間、ここまでノンストップで走り続けた列車から英国風の手動信号群が観えてくると、
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列車はバゴー(Bago)に到着する。ここは南方の モン州方面への路線が分かれる要所の駅だ。構内の線路際では黒牛が草をエッサエッサとむしり食べていて、その横に列車は‘ガツン’と停車すると、勢いよく待ち構えていた多種多様な売り子たちが一斉に乗り込んでは、商品の名前を連呼しながら車内を掻き分ける。

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(バゴー(Bago)駅)

 駅の造りといい、信号機から踏切、鉄橋のカタチといい、どれも‘ブリテッシュ’様式である。この余韻はパキスタンや本国イギリスを思い出してしまうが、この国がやっぱりイギリスの植民地であったことを改めて認識させられる。

 ミャンマー(ビルマ)の鉄道は、1877年、イギリス統治下の時代に、ラングーン(ヤンゴン)から北西のピイ(Pyay)までの262kmが『The Irrawaddy Valley State Railway』という会社によって開業したのが始まりである。その後、さらにまた別の会社によって、1884年にシッタン川(Sittang River)に沿いながらタングー(Taungoo)まで267kmが開業した。その路線は、今走っているヤンゴン−マンダレーの今日の大幹線の一部を成している。

 その後、内陸のマンダレーが第三次英麺戦争(英名:Third Anglo-Burmese War)でイギリス軍によって陥落されると、1889年までにそのマンダレー(Mandalay)まで開業させた。その後、路線はどんどん増えてゆき、1896年に植民地政府による『Burma Railway Company』という会社にまとめられ、1929年にインド政府からビルマ側に移管された。そして戦後の1948年、ビルマがイギリスから独立し国有化されると、それ以降は中国やインドの援助を受けながら少しずつ拡張してきた。しかし、他の東南アジア諸国との差は歴然であり、これから相当な整備が開始されるであろう。

 そんな未来を予感すると、今あるこの風景は後になってとっても貴重な一瞬になるかもしれない。開けっぴろげの窓、乗客たちの優しい笑顔、楽しい売り子たちの群れ。彼らはいつも水やジュースはもちろん、弁当にした調理モノ、カエルを燻製にしたもの、コウロギか何か得体の知れない虫をフライにしたもの、果物類、を頭の上に載せてこちらに必死にアピールしてくる。

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 (車内販売は彼らの貴重な現金収入源)
 
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 (得体の知れない食べ物たち)

 私はその中で、『ミコディー』という果物を選ぶ。少しプラムに似て皮はかなり硬いものだが、何かで叩いて二つに割ると、白いみかんの実のようなものが一杯詰まっている。それを一口入れると、舌全体に‘シュワー〜’と甘酸っぱさが広がりけっこう病み付きになる。列車の中ではいろいろな物が売りに来るので、車内買い物を楽しめるのも列車旅の魅力の一つであろう。
 
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 (旅のくだもの、ミコディー)

 列車はバゴーから本格的に北へ向けて針路を取るのだが、まだ全体の1割強しか走っていない。あとはひたすら原野と畑のレイルロードを刻むだけで、時々プチ嵐が襲ったり、その嵐の雲の隙間からインドへ傾いた陽が差し込み、その角度が0度になる頃、辺りはあっという間に闇が包みこんでゆく。

 街明かりというものはほとんど無く、その代わりに、弱弱しいほのかな灯りが村々の窓から炊き出しの余韻と一緒に窓から伝わり、心もとない車内の照明は実に輝きを増しているように見えるが、照らす乗客の疲れを一層濃く映すだけである。

 それでは良い時間になったので食堂車へ行ってみよう。

 続く。
 
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参考文献:
※3)『CHINADAILY.com.cn』 http://www.chinadaily.com.cn/business/2012-02/16/content_14622694.htm

その他

『Train travel in Myanmar (Burma)』 (http://www.seat61.com/Burma.htm
『世界の鉄道』 社団法人 海外鉄道技術協力協会(2005年6月発行)
『地球の歩き方 ミャンマー(ビルマ)』 '11〜'12 ダイヤモンド社 / ダイヤモンド・ビック社
posted by kazunn2005 at 19:25| Comment(0) | TrackBack(0) | 旅行
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