2011年10月19日

なぎさの中の孤島 (与那国の選挙事情 ) 与那国島〜

与那国の選挙事情

 与那国位置.jpg
 (与那国島の位置)

 命がけの選挙

P8230518.JPG

 与那国の議会はもはや行政のカーボン紙のような役割しか機能していない事を悟った。なぜそうなるのか。そこはやはり、この島の選挙事情によるものなのではないかと思い、主に野党系の議員さんたちからいろいろと事情を伺った。

 島の議会は、現在定数6に対して反保守派議員が2人いる。その野党系議員とは民主党系なので、日本国会とは全く逆の様相だ(2011年8月時)。それでも全国の地方議会において反対派がいるだけまだマシらしく、与那国も近年まで反対派議員がいなかった。つまり、オール与党議会であったという。

 事情が変わったのは自衛隊誘致の問題が出てきたからだ。

 与那国島は過疎化が相当ひどく進み、現在では人口が1600人ほどまで減っている危機的な状況だ。同じ最果ての島である小笠原村でさえ約2800人いる。そして、与那国はただの離島ではなく、国境の島である事も忘れてはならない。そこで、過疎化と国境警備問題を同時に解決するため自衛隊を誘致しよう、という動きが始まった。しかし、ここは沖縄、そう簡単なものではない。

 沖縄県、特に先島(八重山)地方ではこのような軍事的な話は相当抵抗感が漂っている。そこには、すでに消えたかと思っていた‘イデオロギー色’が強くあり、社民党・共産党系(俗に革新系)の力がけっこう強い。

 2011年8月から9月にかけて、私は与那国や石垣で八重山毎日新聞を散々読んだ。この新聞は、現地でとても多くの世帯で読まれている主要新聞であり、その内容はかなりローカル色満載だ。例えば、東京で野田首相が誕生したことよりも、八重山の教科書採択問題が一面を飾っているなど。

「あ〜、ここは沖縄なんだな」と強く実感した瞬間だった。

 しかし、沖縄では革新系の新聞ばかり溢れ、それに対する反対意見はなかなか読むことが出来ない。西表島で酒を一緒に飲んだ農夫からは、ほんの少し右よりの事を言っただけで危険思想扱いされた事もあったほど、人々に革新系(この表現好きではないが)の考えが相当浸透している。

 解らないわけでもない。沖縄の人々にとって内地はヤマトであり、琉球は琉球である。中国とヤマトの間をうまく生き延びた自負があったのに、明治のときの琉球処分で日本に併合され、さらに戦時中、日本軍に悲惨な目にあわされ、見捨てられ、米軍統治下の屈辱を味わい、そして日本に戻っても在日米軍によって県民は悩んでいる。当然、本土とは温度差があり、心の奥底ではヤマトに対する複雑な感情が沈んでいる事に対して無視はできない。

 しかし、そんな中、与那国はどうも少し事情が違うようだ。他の八重山の島々のようにイデオロギー的な対立は少なく、そして政治的にも保守系が強く、教科書採択も右より系の教科書を支持している。逆に、反戦とか声高だかには聞こえてこず、主に島外出身者の方がその傾向が強いように感じた。

 だが、与那国にも変化が起こっている。

 町議の選挙結果を観てほしい。以下は昨年9月(2010・平成22年)のものである。

 投票総数 1,172 投票率 97.83%

当 崎元 俊男 サキモト トシオ 男 45 無所属     新      171

当 前西原 武三 マエニシハラ タケゾウ 男 56 自由民主党 現 農業   161

当 崎原 孫吉 サキハラ ソンキチ 男 67 自由民主党    現 会社代表 161

当 田里 千代基  タサト チヨキ 男 53 無所属 新 団体役員 144

当 糸数 健一  イトカズ ケンイチ 男 57 自由民主党 現 農業 142

当 嵩西 茂則  タケニシ シゲノリ 男 49 自由民主党 現 農業 140
--------------------------------------------------------------------

次点 大嵩 長史  オオタケ ノブフミ 男 41 無所属 元 農業 132
(与那国町ホームページより)


 どうであろうか。気づくことは、当落ラインがわずか8票差で決している現実と、トップ当選は、反保守系の議員である。

 島では、選挙となると内地ではバリバリ選挙違反になるような事が平然と行われている。この1票の重みこそが島民の心を荒らし、そして不正の温床となっているのだ。

 それは、過去の町長選挙に如実に現れる。島では、自分が支持した候補が落選すると仕事が回されず干されしまい、一転死活問題につながる。島の産業は主に農業・漁業と土建業、公務員、そして観光業であるから、町役場と繋がりのない産業は少なく、それだけ役場の影響力が強い。

 農家も、仕事がない時は土建業のおこぼれをもらおうとする。よって、自分が支持した候補が落選すると、例外なく大変な冷や飯を食わされるなど、選挙結果次第で地獄となるのだ。土建業においては、負けたほうは入札すらできなくなるし、役場職員も同じ職場の役場内でも対立構図ができる。

 さらに、これは与那国の例ではないが、例えば、町役場の役職つきの者が反体制派を応援したために、一転してごみ収集に左遷させられる、といった過酷な運命も。

 一例として挙げる。

 前回の診療所の医者であるが、建前は『医師を探すのが大変』ということで東京の団体に丸投げしたのだが、実際、石垣島のかりゆし病院というところに、「与那国での診療をしたい」というお医者さんがいるらしい(もちろん、あれよりも安い報酬で)。しかし、『反保守系に属する人』ということで対象外となっているようだ。

 与那国にかかわらず、離島のいくつかの島の選挙は、本当に血みどろの戦いになるケースがたびたび発生し、それは、このような縁故の復讐といった背景があるからだ。ただ単に娯楽が少ないから、という理由ではない。

 それが嫌ならば、そうした対立を生まないために全会一致を優先させたオール与党体制にするしかない。与那国ではそれが長く続いてきた。なぜならば、それが島民にとって幸せなのだから。

 しかし、前町長が亡くなり今の町長となると、一転して自衛隊誘致賛成を表明し、そのため、賛成派対反対派という形で対立関係が発生してしまった。亀裂が生じた島内の狭いコミュニティーは決定的なしこりを残し、果てしない住民対立と人間関係の荒廃が始まり、その連鎖がなかなか解消されないでいる。

 そうした経緯を経て、昨年の与那国の議会選挙にその影響がでた。

 当選議員は保守系の人数が多いが、トップ当選が反保守系である事に注目したい。そもそも、反保守系で立候補すらけっこう勇気がいるのだが、仕事が干されるかもしれないのに、多くの住民は数少ない反保守系に投票したのだ。

 トップ当選したその議員は、島の酒造会社の社長で45歳と若い。私は彼と泡盛を交わしながらお話を伺った。

 「それまで革新(野党)議員がいなかったんです。でも、オール与党体制が長い間続いたため、町民の中には保守系への嫌悪感が限界に達していました。行政側の独善に抵抗し、少しでも町民の意識を変えてもらうことを主眼としています」

 これはかなり驚くべきことである。なぜならば、反体制派に票を入れることなど、この島では勇気のいることであるから。

 何を意味しているのであろうか?

 普通、内地の都会の人間は、秘密投票があたり前の事だと思っている。秘密投票とは、誰が誰に投票した、などと第三者が絶対知ってはならない事で、民主主義の基礎だ。あの投票所の仕切りも心もとないが、一応、秘密投票であるという認識の下、私は候補者の名前を書いている。

 ところが、与那国の一部はそうではない。いわゆる買収選挙(誰へ入れるよう金を渡す)と、本当にその人がその候補者に投票したかどうか監視をしている、との事だ。

 選挙は祭りである。昔から政治は‘政(まつり)ゴト’と言われるように、選挙時に盛り上がる輩は必ずいるもので、いろいろなやり方で選挙を妨害したりするらしい。不正選挙で一つ有名なのが『リレー投票』と呼ばれるもの。これは、ここ与那国でも主要な監視手段だ。

 リレー投票とは、選挙管理関係者とつるんだ人間がまず投票所に行き、投票用紙を持ち帰らせる。そして、買収した投票者にあらかじめ候補者の名前が書かれた投票用紙を渡して投票させ、また白紙の投票用紙を持ち返させる。そしてまた次の人に候補者の名前が書かれた投票用紙を渡す。それを何回も繰り返すのでリレー投票と呼ばれる。そして、最後に事務所の人間が2枚投票して終わる。

 たいていは、白紙を持ち帰った時点で報酬が支払われるらしく、無駄金を使わないで確実に投票させて確認が出来るという点で暗躍しているらしい。

 因みに、町議員に関しては、一ヶ月の給与が19万円ほど、議長になれば25万円ほどであり、買収するにも割に合わないかもしれないが、体制派議員となればいろんな口利きの報酬などもあるのでペイするのだろう。

 因みに、ここの町長の給与は73万円ほど。 

 ついでに他をみてみると、複数の島を管轄する隣の竹富町長は68万円と与那国よりも低く、さらに、人口4万8千の石垣市長が81万、那覇市長が97万と比べてみれば、人口比でいかに与那国町長の給与が高いかわかるだろう。

 P8240564.JPG
 (他の沖縄県内の首長の給与)

 反対派の崎元議員、田里議員は、3月において給与削減案を議会に提示した。町財政が苦しい中、町長の給与が他の自治体に比べて高すぎだとして減額賛成討論をしたが、否決された。

 P8240565.JPGP8240567.JPG
 (町長報酬減額案の賛成討論の原稿とその案)

 こうしてみると、買収してでも議員や町長に当選したい気持ちが出、また、これを許してしまう風土となるのは仕方がない。しかし、法律が機能してない点はまた別問題だと思う。影での買収選挙は、住民の人間関係や意識が変わらない限り現状では防ぐ手立てがない。

 だが、百歩譲って、投票時の秘密投票だけは何とかならないものだろうか。これは、民主主義の最低の線であり、絶対条件である。

 日本国憲法の第15条で『投票の秘密』が保証され、さらに公職選挙法46条で「無記名の投票」、同52条で「投票の秘密保持」が保証されている。同226〜228条には罰則も規定されている。同68条6項の、投票用紙に対する他事記入禁止規定も投票の秘密を保持するためのものである。

 また議会の議長選挙でも秘密投票が行われている。

 リレー票などは法律違反/憲法大違反だ。

 日本は、どこかの未成熟な国へ選挙監視団を派遣しているが、そんな先進国家ヅラした国の選挙が、不完全な発展途上国か社会主義国顔負けの不正選挙をやっているようでは、とても国際社会に顔向けできないではないか。言ってみれば恥である。

 これを正常にするには、土着の島民では無理かもしれない。

 鹿児島県の徳之島に伊仙町という町がある。ここは闘牛で有名な島だが、住民も血気盛ん。毎回の町長選挙では目に余る不正選挙で毎回、選挙結果をめぐり混乱し、ついには殺人事件さえも発生した。

 背景には、とある病院財閥と反財閥系との抗争があるのだが、島外より住民票を移させるなど不正が露骨だったため、見かねた鹿児島県警は、機動隊部隊を伊仙町に派遣し、徹底した選挙監視を実行した。つまり、よそ者が選挙管理委員会を取り計らい、そして監視するしかないのである。

 選挙がこのような選挙なので、町民の民意というものが歪められ、民意よりも均衡ある利益の分捕り合戦の末の結果が今の与那国の行政と議会なのである。

 しかし、自衛隊問題の出現で事態は単純なものではなくなった。次回は、国境の島という立場からみた与那国について。

P8260595.JPG
posted by kazunn2005 at 23:01| Comment(0) | TrackBack(0) | 旅行
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

この記事へのトラックバックURL
http://blog.sakura.ne.jp/tb/49049822

この記事へのトラックバック