2011年09月17日

為替と旅

為替と旅

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 スイス中銀が金利据え置き、スイスフランの上限も維持
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20110915-00000121-reu-int

 先日、スイス国立銀行(スイスの中央銀行)が、日本同様通貨高で困っているスイスフラン(CHF)に業を煮やし、ついに行動を起こしました。
 
 10スイスフラン現金(表) - コピー.jpg
 (10CHF札)10フラン≒880.16〜21日円(9月16日午前4時21分現在)

 それは、ユーロに対して対1.2ユーロよりもスイスフラン高になったら、無制限に介入しますよ!ということでした。

 つまり、日本円が米ドルに対して75円よりも円高になったら、問答無用で介入するよ、と宣言したようなものです。

 スイスの首都はベルン、高度な自治州の集まりの連邦国家でして、主に金融財政と外交、軍事は連邦政府が担っています。ユーロに取り囲まれている山の国で、周りがあれよあれよと通貨がユーロになっていっても、英国ポンドやスイスフランはまだ独自通貨のままです。

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 (ベルンの連邦政府の議事堂)

 一時、みんなユーロになろう!と、大木の下にみんな集まるかのように、という感じで各国めざしましたが、ギリシャのような、ふたを開けたらトンデモ国家も中にいた!、というような国まで入れてしまったため、宝石とたわしが混じったわけの分からない通貨になってしまいました。

 そしてその咎めが今に至っています。「ユーロはおっかねーから、とりあえず、お隣のスイスさんに資金を移しておこーと」と、、こぞってスイスフランにお金が流れていきました。そして昨年、対ドルで史上最高値を更新し続け、ついに1ドル≒1Sフランを突破し、そして先月、ユーロですら、1Sフラン≒1ユーロ寸前まできました。

 スイス財政当局はこれまでも何回とやら為替介入しましたが、結局効果はありませんでした。なぜならば、いくらがんばっても相手(アメリカ様)がジャブジャブでお金刷っていれば焼け石に水ですからね。

 アメリカ国内では、1ドルで買えるものがどんどんなくなって目減りしているのに、お札も余り刷らず、物価が安定しているスイスの通貨が米ドルと同じように安くなるわけがありません。

 ところが、今度はアメリカだけでなく、隣のユーロも火がつき、いっそう避難資金が流入してきました。さすがにもう我慢の限界!といった感じで、ついに無制限介入という手を出してきました。

 スイス中銀の総裁は、元ファンド筋のフィリップ・ヒルデブラント総裁。彼は投機勢がどういう動きをするのか知っていますが、彼も賭けに出たのでしょう。

 なぜならば、為替レートを都合よく留めさせることなど不可能に近い、と彼自身が一番知っているはずです。もちろん、アメリカのFRBのバーナンキ議長も米ドル安にここ数年仕向けていますが、この咎めはいつか来るでしょう。

 さて、私は今回のスイス中銀の無制限加入のニュースを聞いて、そんな事可能なんじゃろうか?と疑問に思いました。

 これは、対ユーロにおいてスイスフランはペッグ制を採る、という意味なのでしょうか。つまり、スイスとユーロ以外の他の通貨との関係は、ユーロの値動きに準ずる、という意味なのでしょうか。 こんな事が出来れば、円なども対ドルで最低為替レート設定できるのでしょうか。

 ○世界の為替制度

 まず、世界の通貨に関して大まかに分けて以下の制度があります。

※変動相場制(米ユーロ日英スイス豪など)

※固定相場制、半固定相場制(いろんな国)
(一定の変動幅を許容し介入によって事実上ほぼ固定レートとしたもの)

 1.ペッグ制(香港ドル、サウジアラビアリアル:対米ドル)、(デンマーク・クローネ、ブルガリアレフ:対ユーロ)など)

 ブルガリア.png
 (一例:ブルガリア・レフのチャート)

お金 旧東欧 ブルガリア 表@.jpg
 (ブルガリア・レフ札)

 一定の変動幅を許容し、介入によって事実上ほぼ半固定のレートとしたものですが、固定相手が対米ドルだけといった、特定の国だけに対しての固定相場。変動幅は、IMFが示した1パーセントです。中東の多くの国々が米ドルにペッグ(繋ぎとめ)しているので、石油の支払い≒米ドルという図式が成り立ちます。
 米ドルに対して弱い通貨の国にとって、米ドル自体が弱く石油が騰がることは、その国にとってそれ以上に石油が高騰する結果になり、それが各国の物価高に結ばれていきます。

 2.バスケット制(シンガポールドルや人民元など)

 1国のみの通貨ではなく、複数の通貨レートの平均値と自国通貨を連動させ、一国の金融事情に偏ることをさけるための固定相場制度。中身を公表していない国もあります。

 3.管理フロート制

 為替レートを市場メカニズムに任せる形をとるものの、その国の政府・中央銀行が介入して為替レートを管理する制度。人民元は、バスケット制の管理フロート制、香港ドルは、1US$=7.75〜7.85HK$間での変動を認めた、対米ドルペッグ制管理フロート制ともいえます。

 固定相場とは、あくまでもある国の通貨に対してだけの意味であり、すべての国の通貨に対して固定は不可能です(全世界の通貨が固定になれば可能)。

 ○スイスフランは?

 で、話はスイスフランに戻しまして、今回の無制限介入は一見すると、ユーロに対してほぼ固定するよ、と採れなくもないですが、世界の固定相場レートは変動幅を設定しているもの対して、スイスの場合は上限のみ設定した、という事なのでペッグ制ではありません。

 例えば、今回スイス中銀が発表したものは、スイス・フランが対ユーロに対して1.20よりスイス高になった場合は、無制限のスイス売り介入を実施するぞ、という「1.20フロアー制」導入という解釈もあります。

 実は、ユーロに対してペッグ制を導入すれば、ユーロの金融政策、例えば、ユーロが金利を上げれば、どんな経済状況にも関わらずユーロに追随して金利を上げなければいけない羽目になります。スイス中銀は対ユーロを「一定の範囲に収めたい訳ではなく、あくまでも1.20以上のスイス高を避けたい」だけです。

 それを思えば、自国の金融政策権を放棄してまで、それも固定どころか通貨さえも捨てた不況のスペインやイタリアは、もし今、ペセタや伊リラがあれば金利など上げなかったでしょう。その点、英国ポンドは良かったと思います。

 では、果たして、変動相場制の通貨の相場の変動幅を抑える事など可能なのか?つまり、最低為替レート設定が可能であるのか?

 私は素人なので解りませんが、たぶん無理でしょう。もしある国が本気で最低為替レートを設定、何てことは不可能〜。

 もし、日本が「対ドルで円の上限を75円で設定する」としたければ、設定だけは可能だと思います。ただ、なぜそれをしないのか。それはあまりにも大きな賭けだからです。

 ○変動為替レートは操作可能?

 現在市場の一部では、スイス中銀が1.20を死守するには、最低でも1兆ユーロ規模のユーロ買い/スイス売り を継続しなければならないと噂されています。1兆ユーロって、約100兆円ですよ。

 仮に、1兆ユーロ使っても1.20を守りきれず、スイス高がどんどん加速してしまったらどうなるのでしょうか?スイスの経済規模は約5,000億ドルです。1兆ユーロ規模の介入を実施したと想定した場合、スイス中銀の介入による為替損失額を計算すると

10ポイント(1.2000が1.1990へ)動いた場合、損失は10億フラン(約880億円)
100ポイント(1.2000が1.1900へ)動いた場合、損失は100億フラン(約8800億円)
1,000ポイント(1.2000が1.1000へ)動いた場合、損失は1,000億フラン(約8兆8千億円)→  スイスGDP規模の2割の損失 

 さらに、金額的な損失だけでなく、国際金融的信用も失い、さらにスイス高を加速させる・・・失うものは甚大です。これらを日本ができる度胸はあるでしょうか。

 因みに、日本円は、円高円高と騒がれている割には、スイスほど実質実効為替レート(物価とか勘案した本当の意味での為替レート)が対ドルで騰がっているわけではありません。つまり、名目上円高でも、あちらがインフレなので、外国で買えるモノやサービスの価値がそれほど有利になっているわけではない、という事です。諸外国に、「うちは円高で苦しいよ〜、だから円安にしてよ」といっても、「おたくはスイスさんにくらべてしそれほどではないでしょ」
 と、理解してもらえません。だから、日銀の円売り介入なんかは、おおよそお金の無駄遣いに終わるでしょう。マスコミが「日銀は円高を放置している」なんて騒ぐから、いやいややるんでしょうけど。マスコミは、介入がカネの無駄遣いということ、解っているのかな?

 ○旅のヨーロッパのいろんな通貨

 因みに、私が訪れたヨーロッパ各国の小さな国において、訪問するたびにその国の為替レートをチェックしていました。ヨーロッパにはまだまだユーロになっていない通貨がたくさんあります。

 バルト三国のラトビアのラッツ(LVL)なんかは、小国のくせにまるで英国ポンドのようなレートで、5ラッツ札(当時220×5円くらいだった)でけっこうモノが買えました。

 お金 旧東欧 ラトビア 表@.jpg
 (ラトビアのラッツ(LVL))

 チェコとスロバキアのコルナは、国力を反映して似たような国なのにスロバキアのお金がチェコよりも多く換金できましたし、物価が安かったのを記憶しています。今はスロバキアはユーロになってしまいました。

お金 旧東欧 スロバキア 表@.jpg
 (旧スロバキアコルナ)

 アルバニアのレク(ALL)なんか、ギリシャですらごみ扱いされ、国内でもユーロ求められたりして紙幣が泣いていたし、ルーマニア・レウ(RON)は、桁数が多くて混乱し、日々為替レートが全然違うし、お金にもその国の個性が色濃く出てました。

お金 南欧 アルバニア 表.jpg
 (アルバニア・レク札)

 そして、オーストリアの東隣の小国、ハンガリー。変動通貨なのにハンガリーホリント(HUF)などはあまりうごかななぁ〜、と感じたことがあるのですが、規模が小さいと変動幅が小さくなるものなのでしょうか。因みに、HUFは、対ユーロでここ数日けっこう上昇(ホリント高)しています。何かの予兆でしょうか。ユーロがダメなのでHUFにも資金が流れてきています。

お金 旧東欧 ハンガリー 表@.jpg
 (ハンガリーホリント札)

ハンガリー.png
 (ハンガリー・ホリントの対ユーロ相場)

 ポーランドのズロチ(PLN)は、ユーロ入りを悲願としていますが、どうも最近怪しいです。

お金 旧東欧 ポーランド 表@.jpg
 (ポーランド・ズロチの札)

ポーランド.png
 (ズロチの対ユーロレート)

 
 チェココルナ(CZK)は、スイスの代わりの避難通貨として注目されているらしいですが・・・

お金 旧東欧 チェコ 表@.jpg
 (チェココルナ札)

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 (チェココルナの対ユーロレート)

 ルーマニア・レウ(RON)はデノミして普通の通貨になりましたが、まだ超弱通貨です。

お金 旧東欧 ルーマニア 表@.jpg
 (ルーマニア・レウ札)

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 (ルーマニア・レウ:対ユーロ)

 
 あと、スイスフランはお隣リヒテンシュタイン公国でも使用されています。もちろんユーロも流通しています。お互いが等価になったら彼らはどう感じるのでしょうかね。リヒテンスタインの三分の一は銀行業で喰っているらしいですが、この国の立ち位置は微妙ですね。

 モンテネグロのように正式なユーロ圏ではないのにユーロを流通させているところもあるし、通貨政策はユーロ圏のみならず、東欧諸国にも大きな影響がありますね。

 こうやって、通貨のことも気にしながら旅をするともっと楽しく出来る、kazunn2005でした。
 
 (お札の画像はいずれも2002年時のものです)
 
15.アルプス遠望.jpg
posted by kazunn2005 at 20:16| Comment(0) | TrackBack(0) | 旅行